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◆塩トマトとテナガタコ塩トマトとテナガタコ◆
◆加計呂麻島の「さんご塩」◆

◆塩トマトとテナガタコ塩トマトとテナガタコ◆

●『かがり火』支局長の吉田富明さんは、熊本県玉名市岱明町のトマト農家である。彼のつくるトマトは普通のトマトとはちょっと違う。囓るとほんのりと塩味が口中に広がる塩トマトなのである。

以前、八代産の塩トマトがテレビで紹介されて、ちょっとしたブームになったようだが、塩トマトは塩味ではあるけれど甘みもあって、一度、食べると普通のトマトでは飽き足らなくなる。

この塩味のトマトの秘密は、吉田さんの畑のすぐ前に広がる鍋松原海岸だ。海水が土壌にしみ込んで、その塩分をトマトが吸収してできるものらしい。

そのうえ、この塩トマトは減農薬で栽培されているから大変な人気で、全量が直接契約で小売店やスーパーに卸している。いつも品薄状態なのだ。

●吉田さんにはトマトづくり以外にも特別な技術がある。それは鍋松原海岸でのテナガタコ取り名人なのである。鍋松原海岸は、アサリ、シャク、タイラギなどの宝庫だがとりわけこのテナガタコの醤油煮はうまい。

3年前にタコ取りに同行したときのことを本誌の『かがり火日記』に書いたが、それを再録させていただきたい。

●「吉田さんは、シャベルとクワを持って干潟に入った。2月の海は寒い。寒さを我慢してついて行くと、まだ時期には早いせいか獲物は少ない。それでも、吉田さんはどんな目をしているのか、保護色のタイラギやシャクを発見して、籠に放り込む。

 そして、遂にテナガタコ捕獲のための穴掘りを始めた。実は、吉田さんはこの辺りでは磯遊びの名人として有名で、地元テレビ局が四季折々の干潟の風景を撮影に来るときは、吉田さんを引っ張り出して、テナガタコの捕獲作戦を撮影するのだという。

この日はいくつか穴を掘ったが、すべて空振りに終わった。そろそろ潮が満ちてくるころになって、ここは非常に可能性が高いと猛然と穴を掘り出した。掘ってはバケツで水をかい出して、また掘り続ける。あっという間に、吉田さんがすっぽり埋まるぐらいの穴になった。テナガタコも危険を察知して逃げ回っているから、なかなか捕まらない。穴を掘り始めた方角が反対だったと吉田さんは反省しながらも掘り続ける。逃げ回る先にシャベルを入れれば比較的早くゲットできるらしいが、後ろから追い掛けていくかたちになったらしい。

かがみ込んで手を穴に突っ込んだ吉田さんが“よしっ、足に触った”と叫んだ。しかし、タコは逃げ足が速く、穴から引っ張り出せない。そうこうするうちに吉田さんの服は泥だらけになり、海水で濡れた。私は“もう結構ですからあきらめましょう”と言いたかったけれど、遠来の客に珍味を食べさせたいという優しさに何も言えなかった。しかし、瞬く間に潮が満ちてきて、これ以上の追跡は無理と断念した。吉田さんはしきりに悔しがったが、私は胸が熱くなった」

※塩トマトの注文先である吉田さんの住所と電話番号は、許可をいただいた後で掲載いたします。

  ◆加計呂麻島の「さんご塩」◆

●『かがり火』は無名に近い媒体ではあるけれども、一応は全国媒体だから、北海道から沖縄まで全国を取材で歩き回っている。本誌は、地域づくりに取り組んでいる“変”差値人間を紹介するのが目的だから、グルメ情報には力を入れているわけではない。

地方の文化や歴史には何の関心も示さずに、ただうまいものを紹介しているテレビのグルメ番組などは苦々しく思っている。地方は都市住民においしいものを提供するために存在しているのではない。

それに、おいしいものを食べたいなら、その土地に行って現地で食するのがいちばんなのだ。通販などで取り寄せることを否定するわけではないけれど、できることならば産地で食べてほしいと願っている。

●と思っているのだけれど、どうしても人に教えたくなるような農産物や食材に出会うこともある。本当にいいものおいしいものに出会うと、誰にも教えたくないという気持ちと、もっと広く世間に知ってほしいという矛盾した気持ちがせめぎ合って疲れてしまう。

『かがり火』のバックナンバー105号で紹介している「完全無農薬・無肥料の自然農法でリンゴを実らせた男・青森県岩木町の木村秋則さんの壮絶な人生」をお読みいただければ分かるけれど、木村さんのリンゴなどはくたくたに疲れてしまったいい例だ。

●さて、今回ご紹介するのはリンゴではなく、加計呂麻島の「さんご塩」。加計呂麻島というのは奄美大島の離島で、奄美本島の古仁屋からフェリーで渡る。この島は、「男はつらいよ」の最後の作品となった48作目「紅の花」のロケ地になった。加計呂麻島はきれいな海で囲まれているが、満男(吉岡秀隆)が泉(後藤久美子)に愛を告白するシーンが撮影された徳浜はことのほか美しい。この珊瑚礁で囲まれた徳浜で“さんご塩”を製造しているのが榊藤光さんである。

●今や天然塩は選ぶのに苦労するほどたくさんある。

「天然塩は多過ぎて、しかも塩の味というのはみんな似たようなものだから、買うときに迷ってしまう」と榊さんに言ったら、「違う! 塩は製造している場所と製法によって、味はそれぞれ微妙に違います。うちの“さんご塩”を舐めてごらんなさい。ほんのりと甘い味がしますから」と言われた。

 それで人差し指の先でちょっと舐めてみると、確かに甘いような気がした。いくつもの天然塩を比較して舐めたわけではないけれど、暗示に掛けられてしまったかのように、榊さんの塩は甘いと信じるようになってしまった。おそらく塩そのものよりも、徳浜の美しさと朴訥な榊さんに惚れてしまったからだろう。

●以来、わが家では冷やしトマトのときは“さんご塩”、サラダのときも、焼き肉のときも“さんご塩”、白菜を漬けるときももちろん“さんご塩”ということになってしまった。

 それでは大量に“さんご塩”を購入しているかというとそうでもない。塩というものは大抵の料理にはほんの少々あれば足りる。だから一袋200gを買うとしばらく間に合ってしまうのである。榊さんには申し訳ないがそういうわけで、私はお得意さんというほどではない。

■     お問い合わせ/加計呂麻島自然海塩工房 
〒894-2141 鹿児島県大島郡瀬戸内町徳浜1400  
TEL0997-76-0523  FAX 0997-73-2038