読書感想文 葛生良一著『福地便り』
過疎の集落を元気にする或る高齢者の〝経験と知


 本誌168号(平成28年)で紹介した岐阜県八百津町の葛生良一さんは、60歳の時、東京から移住した新住民である。現在はソバでむらおこしに取り組む「福地いろどりむら」の主要なメンバーでもある。その葛生良一さん( 83)から、自著の贈呈を受けた。八百津町に移住してからの四半世紀の暮らしをつづったエッセー集である。田舎暮らしの喜びや楽しさ、そして濃密な人間関係も伝えてすこぶる面白い。方言をはじめとして、村の行事や慣習に戸惑うこともあったようだが、今では集落の貴重な一員として地元住民に頼りにされる存在となった。
 過疎地といわれている地域では都会からの新住民を渇望しているが、どうやらその中に高齢者は含まれていないようだ。”高齢者に納税は期待できず、福祉予算ばかり増える”とこぼす自治体職員もいる。これは大きな心得違いである。高齢者の経験と知性がどれほど過疎の地域に大きな恩恵をもたらすものか、この本を読めば分かる。
 葛生さんに取材を申し込んだのだが、難航した。本を読んでもらったのはうれしいが、『かがり火』で取り上げられるようなことは何もないとおっしゃるのである。メディアに出ることも気が進まないという。本誌はメディアといえるほどの影響力を持っていないことや、少しでも多くの人に読んでもらおうと努めるのは著者の責務である、というようなことを申し上げて説得、ようやく会っていただけることになった。コロナウイルスが重大局面を迎える前の3月初旬、東京から八百津町まで中央高速道路で行ったのだが、年齢のせいかたびたび眠気に襲われ、休み休み走ったので5時間かかった。 ( 本誌・菅原)