「『かがり火』を読むと、すごい人がいるなと勇気をもらったり励まされます」という感想をいただくことがありますが、本誌が取材する人は普通の人ばかりです。道徳の教科書を作っているわけではありませんので、人格高潔な聖人君子を探し出して紹介しているわけではありません。本誌は地域づくりの情報誌が看板ですから、何らかのかたちで地域に関わっている人が取材対象です。何らかのかたちとなると、人間の暮らしというのは肉体と同じで単独で完結する器官や機能はなく、すべてが関係して営まれていますから、対象になるテーマは無限に広がります。住みやすい社会というのはさまざまな要素がしっかりと調和が取れていることがいちばんなので、テーマが広く浅く多岐にわたることは仕方がないことかもしれません。

一つだけ気を付けていることがあります。本誌を読み終わった後で読者の心が晴れ晴れするかどうかということです。どんなに深刻で難しいテーマを扱っても、読み終わった後ですがすがしい気分になってもらいたいと思って原稿を書いています。なかなか思うようにはいきませんが。

●本誌に登場する人物は多い号では1516人、少ない月でも67人、平均すれば号当たり約10人です。今号で174号ですから、最低でも1740人が本誌に登場した勘定になります。寄稿していただいたり、ジャーナリストやライターの方にお願いする場合もありますから、小生が直接お会いした方はその70%ぐらいでしょうか。取り上げる条件は決まっていませんが、どちらかというと有名な方よりも無名な方を優先しています。なぜならマスメディアはニュースバリューがあるかどうかが尺度になりますから、評価が定まった方を取り上げる傾向があります。ですから本誌は嵐や真央ちゃんには取材を申し込みません。海のものとも山のものとも分からないけれど本人の計画や人生観に共感するところのある人は取り上げることにしています。早い話、“面白い!”と感じれば取材させていただきます。

 本誌で紹介したからといって有名になったり、特産品がすぐ売れるということはないのですが、世の中は面白いもので、一度活字になるとどこかでまた違ったメディアの目に留まり、運が良ければ徐々にメジャーへの階段を上っていくようです。そんな意味で、『かがり火』はハシゴの役割をしていると思います。それでいいと思っています。

●登場いただいた人たちには本当に頭の下がる方、教えられることの多い立派な方がたくさんいましたが、それでも完全無欠というわけではありません。どんな人もそれなりの気掛かり、問題を抱えていました。取材するテーマと直接関係のないプライベートなことは聞かないことにしているのですが、言葉の端々にちらっと個人的なことがのぞくことがあって、この人にも他人には言えない悩みがあるのだなと気が付くことがしばしばでした。大きな負債を抱えていたり、深刻な病気を持っていたり、当人に問題がなくても家族に闘病中の人がいたり、問題のあるお子さんがいたり、かといえば実家が大変という人もいました。この30年間、取材を通して感じたことは、“秋晴れの空のように雲一つない人生を生きている人はいない”ということです。

●何らかの悩みを抱えていても、皆が集まる席では弱音を吐いたり、愚痴を言わず、淡々と自分の役割を果たしている、そういう人を見てきました。取材はどんな本を読むより、どんな有名な先生の話を聞くよりも、小生のお手本になっています。取材がきっかけで親しくなって、本誌を購読してくださる方も少なくありません。ですから、読者から購読料の振り込みがあれば、下手くそな字ながら手書きでお礼のはがきを出すことにしています。会ったことのある人は、会った時の情景や会話を思い出しながら書きます。未知の読者には住所をヤフーの地図で検索して、その土地の風景を思い浮かべ、どんな暮らしをしているか想像しながら礼状をしたためます。いちいち調べますから時間がかかってしまいますが、その作業が『かがり火』の基本精神を確認していることにもなります。

●今月は20ページの向山美絵子さんから、祈ることの大切さを教えられました。いただいた本の中に、「祈りの良いところは、自分が祈るだけでなく、そばで他人が祈っても効く。遠くで他人が祈り、当人がそのことを知らなくても効く。ほとんど万能の効き目と言ってもいいのです」とありました。これまで、はがきの最後に「まずは御礼まで」「お体にお気を付けて」と敬意と感謝を込めて書いてきたのですが、これからは祈りながら書くつもりです。はがきを受け取った方は、祈りも一緒に受け取ってください。

本誌は人類の平和や貧困の解消にまで手が回りませんが、縁あってつながった人々の幸せを祈ることはできます。何やら不穏な暗黒が垂れ込めてきた昨今ですが、少しでも住みやすい社会をつくるために自分の役割を果たしたいと思っています。

KS