●酉年はトランプショックで始まった。新大統領の型破りな手法はあちこちで混乱と物議を醸している。安倍首相はいち早く首脳会談を実現し、ゴルフまでやって親密なところを見せたが、これについて「こびている」「スネ夫のようだ」という批判もあるようだ。しかしこれはちょっと違うんじゃないか。仮にヒラリーさんが勝っていたとしても、蜜月を演出したに違いない。日本は誰がアメリカの大統領になっても追従せざるを得ない運命にあります。日本の首相には天才的ゴマすりテクニックが要求されているのです。どう転んでも二股膏薬と見られてしまうのなら、この際、三股も四股も膏薬を張り付けて、中国とも韓国ともうまくやってもらいたいものです。下手な信念を持たないというのも立派な信念かも知れません。あちこちに膏薬を張り付けて平和と国益を守ることができたなら、これこそ高等な外交戦術、歴史に名をとどめる宰相になることだろう。

 そうそう安倍首相にお願いがあります。間違ってもジャパン・ファーストなんて言わないでいただきたい。1位を張り合うとろくなことはない。いまこそ「2位じゃ駄目なんでしょうか」の精神でお願いしたい。

●地方の人口減少、高齢化はますます進んでいますが、日本を元気にするにはその高齢者たちに力を発揮してもらわなければならないというのが本誌の主張です。体も頭もしっかりしているのに引退したがる人がこのごろ少なくない。長年の勤労の自分へのご褒美と、家族への感謝をこめて海外旅行を楽しみたい気持ちは分かります。サプリメントを飲んで写生や写真撮影やハイキングを楽しみたいという気持ちも分かります。しかし、もうしばらく若者たちへ力を貸していただきたい。この国の抱えている老人問題は老人の力なしには解決できない。老人力は必須なのです。

先日、ネットに次のような書き込みがありました。「役場を定年退職したのでこれからはメールを送らないでほしい。名簿の登録を削除してください」というものです。恨みがましいようなことを言うようですが、本誌の読者にもそんな方はいらっしゃいます。「これからは今まで購読していた雑誌をやめ、役職もすべて返上して自分と家族のためだけに時間を使いたい」とおっしゃるのです。果してこれは潔い態度なのでしょうか。

●日本には、身辺の雑事を整理して、あの世に旅立つ準備をする「隠居」という美学があります。一定の年齢になったら子どもに家督を譲って悠々自適に暮らすというものです。しかし、これは譲る家督があるから言えることで、現在の日本の老人世代は若い世代にどんな家督を譲ることができるというのでしょうか。膨大な国家赤字を残し、地方の衰退や原発、格差や子どもの貧困など多くの課題をそのままにして、老人が楽隠居に入るというのは身勝手過ぎるような気がしないでもない。日本を元気にするには高度経済成長を支えてきた高齢者たちの奮起しかありません。

奮起といっても何も田畑を耕せとか、お金を差し出せと申し上げているのではなく、社会との関係性を維持してほしいということです。若い世代の道をふさぐことは注意深く、若い人の主張に耳を傾けてほしい。日本の高齢化と人口減少は人類史上初めての現象といわれていますが、ならば世界で初めての価値観も創出しなければならないと思うわけです。

●もっとも、年寄りが若ぶってはとんだ恥をかくことがあります。先日、「Wi-Fi」(ワイファイ)をつなぎたいと思って電気店に相談に行ったけれど、言葉が出てこず、つい「Hi-Fi」(ハイファイ)と言ってしまった。ステレオが登場したころ欲しくて欲しくてたまらなかった、あのころの渇望感が脳みそに焼き付いていたらしい。ハイファイと口に出してしまうと、ワイファイなどどうでもよくなって、60年代のことがあとからあとから思い出される。年を取ると新しい情報で古い情報を上書きできなくなるようだ。若い人と暮らしていないから、たまに若い人と会うと話についていけない。「ニゲハジ」について話が盛り上がっているようだったが、何のことかさっぱり分からない。「逃げ恥」はテレビドラマの「逃げるは恥だが役に立つ」を略したものだと知った時は、話題は次に移っていた。

NHK紅白歌合戦」が高齢者に人気がないという理由はよく分かる。懐メロを歌う歌手の名前は次々に出てくるのだが、新人はさっぱり覚えられない。歌手名と曲名の区別がつかない。それに、このごろよく出てくるカタカナ英語が分からない。「レジェンド」「レガシー」という言葉はやっと分かった。ほかにもコンテンツ、アジェンダ、リテラシー、リソース、ソーシャルキャピタルなどを連発されると頭が混乱してしまう。その横文字の意味を考えているうちに、話の筋から置いていかれてしまうからだ。

●そこで“記憶力の減退は不便だが恥ではない”と思うことにした。実際、同世代の人と会うとほとんど漫画である。3分に1回は、「ホラ、ホラ、あの、あの」と言って固有名詞を思い出せないので会話が中断する。名前が思い出せないので、容貌や出身地やエピソードなどの付帯項目を並べて思い出そうと頑張るのだが、やっと名前が出てきたころはお互いに何の話をしていたのか分からなくなっている。

しかし、こんなことで老人はめげてはいけない。請われたら控えめに自分の役割を果たす老人、若者の足を引っ張らず、夢を応援する老人こそがいまいちばん大切な存在だという気がする。

ところでわが家では、この人の名前が出てこなくなった時はボケが始まったと認めようということになっている。「ほら有名な歌手で、若死にした、子どものころにデビューした、ほらほら三人娘として映画にも出ていて、ほら魚屋の娘で……」

そうです、答えはMISORA HIBARIです。

 もうすぐ春ですが、冬将軍が去ったわけではありません。風をひかないようにお気を付けください。(K.S